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英国、郷愁、そして恋……。カズオ・イシグロ『日の名残り』レビュー

 

「どうだい、二、三日、どこかへドライブでもしてきたら?」

 

新しい主人ファラディの一言から、思い出との英国旅行が始まります。

日の名残り



あらすじ

新しい主人ファラディに、休息のための旅行を奨められた主人公の執事、スティーブンス。

何度か断った後、彼は旅に出る。

 

旅の目的は休息だけではない。

ティーブンスは密かにかつての同僚、ミス……いや、ミセス・ケントンに会うつもりだった。

 

フォードに乗って、人に会い、景色を観て、昔を想う。

6日間に渡る英国小旅行記が、執事スティーブンスによって語られます。

 

著者紹介

原題『The Remains of the Day』

著者はカズオ・イシグロ

Wikipediaより引用

 

ノーベル文学賞の受賞者であり、本書でブッカー賞を獲得しています。

1954年生まれ、現在69歳の男性です。また、生まれが長崎で日本人の血が入っている様です。

 

他の著作に『わたしを離さないで』『わたしが孤児だったころ』などがあります。

 

ブッカー賞はブッカー・マコンネという会社が作った賞らしく、優れた長編小説に与えられる賞だそうです。

魅力紹介

風景

なんといっても美しい英国の風景描写はこの本の魅力の一つです。

 

ベンチに座って田園風景を眺めたり、出会った人に勧められて湖を見る。突然泊まるに事になった民宿で眠る。

 

舞台は第二次大戦後の英国、いまだ美しい風景を残しつつも、どこか寂し気な雰囲気が漂っている。

 

そんな中スティーブンスから語られる、栄光ある過去。

 

大戦前に仕えていた主、勤めていた大きな館ダーリントン・ホール、仕事論、そして同僚の女性。

なぜか読者までもが懐かしくなる。そんな英国風景の描写が素晴らしい。

 

さて、この作品はスティーブンスの語りによって進行します。

いわゆる、信頼できない語り手を用いた作品なのです。

 

ですから、あたかも恋が大きく扱われているかのように僕は書きましたが、主人公が誰それが好きだった……。などとは決して言わないのです。

 

しかしスティーブンスの語りを聞くと、いや、これは恋の駆け引きを仕掛けられているのでは? スティーブンスもこの女性に気があるのでは?

そう思うような描写が沢山あります。

 

すべては読者が想像するしかない。

読者の想像を掻き立てる人間関係と恋。

カズオ・イシグロの想像させる筆致も本書の魅力です。

 

衰退

この主人公、執事のスティーブンスは新しい主人である米国人のファラディに仕えている事が冒頭すぐに分かります。

 

では以前の主人はどうなったのか?

以前勤めていたダーリントン・ホテルはどのような歴史を辿って行ったのか。

 

大英帝国”だった”この国の風景と、徐々に語られるスティーブンスの人生がリンクする。

 

ティーブンスの思い出の中では、英国は第一次世界大戦に勝ったグレートブリテン

現在は多くの植民地を手放すことになる、第二次世界大戦後の元大英帝国

 

時代は変わったし、自分ももう若くない。

旅は良い事ばかりではなく、つられて苦い思い出も蘇る。

 

旅をしながら人生を辿り、過去を想う。

 

執事スティーブンスが旅の果てに想うのは……。

 

おわりに

日本人が読んでも懐かしい。

英国小旅行、あるいは人生を巡る旅。ぜひ皆さんも