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憐れみなしの介護映画『最強の2人』レビュー

暗くない介護モノ。最高のバディと一緒に笑おう

Amazonより引用

あらすじ

車で夜の街を爆走する2人組。

1人は黒人の大男、もう一人は髭を蓄えた障がい者らしき、中年男性。

 

一見すると繋がりの無さそうな2人が、どうして一緒に爆走するのか。

 

首から下が動かない大富豪と、貧しい黒人青年の友情物語が始まっていく。

 

監督・キャスト紹介

エリック・トレダンとオリヴィエ・ナカシュの2名が監督

 

※エリック監督は画像が見当たりませんでした。

オリヴィエ・ナカシュ

 

2人は『スペシャルズ!~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』という映画でもタッグを組んでいる様です。

主人公2人の内、フィリップを演じるのはフランソワ・クリュゼ

フランソワ・クリュゼ



もう一人の主人公ドリスを演じたのはオマール・シー

オマール・シー



魅力紹介

 

テンポの良いコメディ

上映時間112分を思わせないテンポの良さが魅力。

主人公の1人、黒人青年のドリスとの会話やジョークが物語を冗長に感じさせません。

 

もちろん明るい話題ばかりではなく、貧しさや、ドリスの過去、自信を持てないフィリップの心情などもしっかりと描かれているのですが、2人の友情と持ち味で解決していきます。

 

暗くなりそうなシーンもあるのに、見ていて辛くならない、鬱々としないのは、きっとセリフや場面転換が上手いから。

 

テンポの良さがこの映画の魅力を支えていると思います。

皮肉?

現代絵画やオペラ、障がい者を使ったチャリティー番組などに対して、黒人青年のドリスはものすごくストレートない物言いをします。

 

 

ひるまずにドリスの物言いや感じ方を描いたのは見事だし、「一理あるな」と思うところもあります。

 

監督流の皮肉なのか、ドリスと言うキャラクターが発した言葉なのか。

 

いずれにしろ、彼らの興味深い会話もこの映画の魅力の一つです。

 

障がい者に対する憐みの無さ

この映画には障がい者に対する、可哀想とか、助けるべきだ!と言う様な上から目線の見方がありません。

 

作中でも、首から下が動かないフィリップが「ドリスは私に遠慮がないからいいんだ」と言う様な事を言っています。

 

暗いシーンもあるのですが、全体として明るいコメディの印象を与えているのは、憐みの無さが要因かもしれません。

 

とにかく介護や障がい者の話ではあるけども、この映画はシンプルにコメディとして成立してます。コメディとして面白くできているのが素晴らしい!

まとめ

この映画には希望がある…。と思う。

 

もちろん介護や障がいのある人は、大変な事も多いかもしれない。

 

でも楽しいことだってある。

人間には楽しむ力があるのだという事を、この映画は再認識させてくれました。

 

もしかしたら、こんなに楽しいモノじゃない!と怒る人も居るかもしれない。

 

でも、世の中には楽しめた事例がある。と言う事実が希望になる事もあると思う。

 

実在の2人をモデルにして作られたこの話で笑顔になる人も、沢山いるはず。

 

最強の2人と一緒に笑おう! この映画、オススメです。

 

 

英国、郷愁、そして恋……。カズオ・イシグロ『日の名残り』レビュー

 

「どうだい、二、三日、どこかへドライブでもしてきたら?」

 

新しい主人ファラディの一言から、思い出との英国旅行が始まります。

日の名残り



あらすじ

新しい主人ファラディに、休息のための旅行を奨められた主人公の執事、スティーブンス。

何度か断った後、彼は旅に出る。

 

旅の目的は休息だけではない。

ティーブンスは密かにかつての同僚、ミス……いや、ミセス・ケントンに会うつもりだった。

 

フォードに乗って、人に会い、景色を観て、昔を想う。

6日間に渡る英国小旅行記が、執事スティーブンスによって語られます。

 

著者紹介

原題『The Remains of the Day』

著者はカズオ・イシグロ

Wikipediaより引用

 

ノーベル文学賞の受賞者であり、本書でブッカー賞を獲得しています。

1954年生まれ、現在69歳の男性です。また、生まれが長崎で日本人の血が入っている様です。

 

他の著作に『わたしを離さないで』『わたしが孤児だったころ』などがあります。

 

ブッカー賞はブッカー・マコンネという会社が作った賞らしく、優れた長編小説に与えられる賞だそうです。

魅力紹介

風景

なんといっても美しい英国の風景描写はこの本の魅力の一つです。

 

ベンチに座って田園風景を眺めたり、出会った人に勧められて湖を見る。突然泊まるに事になった民宿で眠る。

 

舞台は第二次大戦後の英国、いまだ美しい風景を残しつつも、どこか寂し気な雰囲気が漂っている。

 

そんな中スティーブンスから語られる、栄光ある過去。

 

大戦前に仕えていた主、勤めていた大きな館ダーリントン・ホール、仕事論、そして同僚の女性。

なぜか読者までもが懐かしくなる。そんな英国風景の描写が素晴らしい。

 

さて、この作品はスティーブンスの語りによって進行します。

いわゆる、信頼できない語り手を用いた作品なのです。

 

ですから、あたかも恋が大きく扱われているかのように僕は書きましたが、主人公が誰それが好きだった……。などとは決して言わないのです。

 

しかしスティーブンスの語りを聞くと、いや、これは恋の駆け引きを仕掛けられているのでは? スティーブンスもこの女性に気があるのでは?

そう思うような描写が沢山あります。

 

すべては読者が想像するしかない。

読者の想像を掻き立てる人間関係と恋。

カズオ・イシグロの想像させる筆致も本書の魅力です。

 

衰退

この主人公、執事のスティーブンスは新しい主人である米国人のファラディに仕えている事が冒頭すぐに分かります。

 

では以前の主人はどうなったのか?

以前勤めていたダーリントン・ホテルはどのような歴史を辿って行ったのか。

 

大英帝国”だった”この国の風景と、徐々に語られるスティーブンスの人生がリンクする。

 

ティーブンスの思い出の中では、英国は第一次世界大戦に勝ったグレートブリテン

現在は多くの植民地を手放すことになる、第二次世界大戦後の元大英帝国

 

時代は変わったし、自分ももう若くない。

旅は良い事ばかりではなく、つられて苦い思い出も蘇る。

 

旅をしながら人生を辿り、過去を想う。

 

執事スティーブンスが旅の果てに想うのは……。

 

おわりに

日本人が読んでも懐かしい。

英国小旅行、あるいは人生を巡る旅。ぜひ皆さんも